水星みたいに【くらりょ】

まず真っ先に、安堵したのを覚えている。水曜日の昼休み、人気のない校舎のすみっこ。日当たりの悪い廊下は秋にしては冷え冷えしていた。 「キスしても、いいっすか?」 人目を忍んで、時間を惜しんで会っているわりには寮の食堂でも、今日じゃなくてもできる雑談しかしていなかったのに。そう切り出した倉持の表情は真剣そのものだった。 よかった。ちゃんと、そういう「好き」なんだ。 「いいよ」 なんと返すのが正解なのか、と考える前に答えた自分に呆れる。いつもみたいに笑えているだろうか? 誰かが来るかどうかより、そんなことばかり気にしていて。 忘れたくない、と願った。至近距離で交わした目線の刺激も、ふれあった刹那も、つかまれた肩に伝わる熱い体温も。 この一日が、一年よりも長ければいいのに。なんて詮ないことまで願ったのだから、つける薬はどこにもない。 fin.まず真っ先に、安堵したのを覚えている。水曜日の昼休み、人気のない校舎のすみっこ。日当たりの悪い廊下は秋にしては冷え冷えしていた。
「キスしても、いいっすか?」
人目を忍んで、時間を惜しんで会っているわりには寮の食堂でも、今日じゃなくてもできる雑談しかしていなかったのに。そう切り出した倉持の表情は真剣そのものだった。
よかった。ちゃんと、そういう「好き」なんだ。
「いいよ」
なんと返すのが正解なのか、と考える前に答えた自分に呆れる。いつもみたいに笑えているだろうか? 誰かが来るかどうかより、そんなことばかり気にしていて。
忘れたくない、と願った。至近距離で交わした目線の刺激も、ふれあった刹那も、つかまれた肩に伝わる熱い体温も。
この一日が、一年よりも長ければいいのに。なんて詮ないことまで願ったのだから、つける薬はどこにもない。

fin.

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