階段を上って海斗の部屋を窺うと、電気がついていなかった。それどころか階下とはまるで異なりやけにひっそりしている。呼びかけてノックしてみても返事はない。遠慮なく中を覗くと、案の定海斗は寝ているようだった。めずらしいこともあるものだ。
「かっちゃん、もうご飯できるよー」
恒例の食事会は持ち回り制で料理当番が変わるが、準備や後片付けは皆平等に行う。働かざる者食うべからず、末っ子長男といえど例外ではない。宿題してくる、と部屋にこもっても普段ならタイミングを見計らって降りてくるものなのだが。
床にぺたりと座り込んで、ベッドの上に両肘をつく。海斗は目覚める様子もない。
「かーっちゃん、起きないならチューしちゃうよ」
なんちゃって、と心の中でおどけながらも声のボリュームは絞った。身を乗り出せば、すぐにでも触れることができる距離。嬉しかった。衝動にも似たこの願望を、幾度となくため息に変えた思慕を、もう持て余さなくて済むことが。
夏は日暮れも夜明けも似たような明るさだから、薄い青で満ちた部屋にいるとどちらかわからなくなる。ずっと、明けることのない夜の中にいると思ってたんだけどね。
思い出していたら愛おしさよりも憎たらしさが勝ってきて、鼻を摘んで無理やり起こす。
「七緒てめえ!」
「チューして起こしたほうがよかった?」
冗談とも本気ともつかないように言ってやったら、ただ頭をはたかれた。ダメじゃないんだ、って解釈するのは、さすがに都合がよすぎる?
fin.

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