smooch!【海七】

なんでだよ、というのが回答なのはいただけない。もともとすんなりしてくれるとも思っていなかったけれど。
「だっていつもオレからしてない?」
「そんなことねーよ」
「いーや、そんなことある」
ずい、と迫ると身に覚えがあるらしく顔をそらされた。まったくわかりやすい。そういう初心な反応も、かわいくて好きではあるんだけど。
「だから、かっちゃんからキスして?」
おねがい、と念を押す。そうしたらきっとほだされてくれる、っていうのをわかってやるからあざといとか言われるのだろうか。でも使えるものって全部使わないと、もったいないじゃん。
しばらく逡巡するように目線をさまよわせたものの、案の定「しょうがねぇな」と返ってきたからちょっと心の中で笑ってしまった。本当に笑うと機嫌を損ねかねないので、とりあえず嬉しそうに見える顔だけする。
「じゃあ目ぇつむれ」
「え」
「なんだよ」
「ううん? はいどうぞ」
せっかくだからどんなふうにキスしてくれるのかを見たかったのに。そういう思惑を察されたのかは定かではないが、ここも素直に従っておいた。
正直、ドキドキよりもワクワクが勝る。最初はオレだって、ドキドキした。あのかっちゃんとキスをするなんて!
諦めよっかなと思ったことも数え切れないし、自分らしくないなって思うことばかりだったけど、キスしてとねだってもいい権利が、今オレにはあるのだから。くすぐったくて、少し笑ってしまいそうになるくらい、幸福なことだ。
しかし、なにも起こらない。
おかしいな、目をつむってどれくらい経っただろう。数えてなんかいなかったし、もちろん確認する術もない。近くに気配はあるので放置されたわけではなさそうなんだけど。まさか焦らしプレイとか?
「うわ、」
そんな生意気な、これ以上焦らされてたまるかと目を開けたら、顔を赤くしたかっちゃんが予想よりずっと目前に迫っていた。うっかり声をもらしてしまう。
「おま、目ぇつむれって言っただろ!」
仰け反るように距離を取られてしまった。しまった、と気づいたときにはもう遅い。
「いやだって、なかなかしてくれないから!」
「もう少しくらい待てよ!心の準備があるんだよこっちは!」
待てないよそんなの、と言い返そうとして、やめた。浅黒い肌で本来はわかりにくいにもかかわらず、頰は真っ赤に染まったままだから。
「緊張してくれたんだ?」
「ーーうるせぇ」
ぶっきらぼうで不器用なことは理解している。想うだけで充分だから、求めることはしてこなかったけれど。
その赤面も緊張も、オレだけに向けられているのだと思えば、しょうがないという気持ちにさせられてしまう。だって好きなのだから。求めていいことが、こんなにも嬉しいのだから。
「かっちゃんはかわいいなぁ」
「あーもう!だから嫌なんだよ!」
とうとう堪えきれずに笑ってしまう。笑うなと怒られてもお構いなしに。どうしたって、くすぐったくて仕方がない。
オレも大概ちょろいよなぁとは自覚しながら、今日のところはこちらかキスをした。してもらうのは、また今度のお楽しみにしておこう。心の準備とやらが終わるまで。

fin.

190531
七緒ちゃんがかっちゃんにキスをねだってみた。目を閉じるよう指示されたので素直に従ったが、しばらくしても何もしてこないので不安になり目を開けると真っ赤になった顔が目前に迫っていた。どうやら一歩手前で緊張してしまったみたいだ。
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