その日が来るのを楽しみにしていた、と言うには大げさだ。三年前の、見えない線を確実に『越えた』のだという実感よりは薄い。けれど意識はする。きっと再会していなくても、絡んだ糸がもつれたままでも、ついに来たのだと感じただろう。
日付が変わってすぐに、スマホが鳴った。宣言どおり。しばらくは会うのが難しいということで、事前に約束をしてくれていた幼なじみは、やっぱりなにより大切だし特別な存在だ。昔から、静弥の中のいちばんいい席は湊のためにある。この先も、変わらないだろう。
「返事終わったか?」
それは疑いようのないことだけど、こうして部屋にいるのは別の人間なのだからふしぎなものだ。
「はい」
「よし、じゃあ誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
十六歳になったばかりの自分がこんな未来を知ったら、きっと悪い夢だと嘆くだろう。いまだって、うまく信じられない気持ちがぬぐえない。
「感想は?」
しかしこういうことをわざわざ尋ねてくるのだから、あのころの延長線上にいまがあるのだと感じさせられる。それに「祝うのなら湊が祝ってくれたあとで」というわがままを通せる相手は、滝川しかいないかもしれない。
「大したことないですね」
すこし笑ってやったら、あちらも苦笑いをした。
二十三歳なんて、全然大したことない。絶対にそう言ってやると決めていた。こうして尋ねられなくても。十六歳のときは、あんなにも遠く見えていたはずなのに。
「でもまあ、よかったんじゃないですか? だっていま、二十三歳の僕が三十歳のあなたと出会っても、好きになんてならなかったので」
さらりと言ったからか、滝川はへんなものを見たような顔をした。「静弥も大人になったな」という声は喜べばいいのか驚けばいいのかわからないという困惑が見えて、純粋に気分が良い。
「さあ。二十三歳のときのあなたみたいに、大人のふりをしているだけかもしれませんよ」
「言うねえ」
降ってきた口づけを受け止める。同じ歯みがき粉の味がして、また明日には帰ってしまうことを思い出す。
「じゃあ、もし同い年の幼なじみだったら?」
「ないですね。あなたみたいなかわいげのない幼なじみ、いりませんよ。湊や遼平くらいのかわいげを持ってから言ってください」
「はい、すみません」
「あと生まれ変わってもチャンスはないのでそのつもりで」
「寂しいこと言うなよ」
ぜんぜん寂しそうじゃない声で、よく言う。手を伸ばしたら、引き寄せられて抱き合った。
もう子どもじゃないから、いっしょに寝るのはいけないことじゃない。大人の夜は長いので。
どんな境遇でも恋に落ちるなんて、それこそ悪い夢だ。だからいま、繋がった一本の糸を大切にしている。
いま出会ったら、幼なじみだったら、あなたを嫌いにならなかった。嫌いだったから、特別だった。
先に行ってしまうのは、どうしたって止められない。八月になればまた差は八つになる。それでもちゃんと追いつくし、また七年経ったときも、大したことないですねと答えるから。
悪くない、そんな未来を夢に見る。
fin.

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