さいきん七緒の様子がおかしい。
部活中や学校にいる間は普段通りだが、ふたりきりになると途端に様子がおかしくなる。なにか言いたげにこちらをじっと見ていると思えば、振り返ると顔をそらしたり。様子がおかしいというより、らしくないという方が正しいか。
らしくない、といえば。
七緒とはじめてキスをした、半月前だ。あのときの七緒は、実にらしくなかった。驚いたときの猫さながら、目を見開いて完全に硬直していたのだから。キス自体は、他に女とでもしたことがあるはずなのに。だからするまでは緊張したのに、その反応に驚いてべつの感情が生まれてしまった。
七緒からは急にするのは反則だの、したいときは先に言ってだの散々文句を言われたのだが、胸が空く思いだった。七緒に対して先手を取ったのなんて、いつぶりだろう。
その後も不意打ちでキスをするたび、赤面して硬直してしまう七緒を見るのが楽しかった。
あの七緒を振り回している。これまでの鬱憤を晴らすとまで表現すると大げさだが、これくらいの仕返しはやってもいいはずだ。
「かっちゃんがこのままならオレ、しばらくふたりきりにはならないから」
「なにが」
「わかってるっしょ? 不意打ち禁止! チューしたいならちゃんとオレの許可取ってからにして!」
「はぁ? めんどくせぇな」
「とにかく、オレがいいっていわなきゃしちゃダメだからね!」
とうとう腹に据えかねたらしい七緒から禁止令が出たのが、一週間前。従順に言いつけを守ってやる義理はないかもしれない。だが俺は七緒の反応が楽しかったのでしていただけであって、わざわざ許可を取ってまでやりたいかと言われれば、そんなこっぱずかしいことできるか、というのが本音だ。
かわいくない従兄弟兼恋人だが、いくら自分が楽しくても嫌だというのなら強要したくないし、いじめるような真似をしたいわけでもない。
七緒に勝った、というささやかな優越感。それがほしかっただけのだから。
なのになぜ、様子がおかしいのか。
「オイ七緒」
「へ、あ? なに?」
「なに?じゃねーよ。なんなんだよ、ここんとこ」
「な、なにが?」
「わかってんだろ。言いたいことがあるならハッキリ言え」
押し黙った七緒がくちびるをもごもごさせる。なんとも煮え切らない態度に、普段なら声を荒げただろう。
しかしそのくちびるの動きを見ていたら、久しぶりにキスしてぇな、ということばかり考えてしまったから自分でも信じられなかった。
「――なんで、してくれないのさ」
「は?」
「だから……なんで、キスしてくれないのさ? 禁止とか、ダメとかいったから、オレもう愛想尽かされちゃった?」
七緒は様子がおかしい。らしくない。俺の知っている七緒は、こんな泣きそうな、不安そうな目で俺を見ない。
なのに、この身に生まれた感情は。
「七緒、キスするぞ」
「え? ぁ、んっ……!」
くっつけるだけでは足りなくて、舌を差し入れたら聞いたことのないような声をもらす。
勝った気になるどころか、止まるためのブレーキを壊された気がした。なんてことをしてくれるんだ、こいつは。
かわいくない、本当に。なのに惚れてしまっているのだから、様子がおかしい、らしくないのはお互い様だ。
fin.

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