ポラリス【湊静】

らしいな、というのが一番の感想だった。個人メッセではなく、グループのほうに送ってしまうところ。『おめでとう』とメッセージやスタンプを送ってくれた他のメンバーが何の話かと訝しむのを、気にしていないのか気づいていないのか。

『窓の外、見て』

メッセージを認識した瞬間、きっとそういうことだと理解した。
なのになぜだろう、カーテンを開けるとき、この上なくどきどきした。渡されたプレゼントの、包み紙を開けるときと似たような気持ち。
この窓の外に見えるのは、向かいの湊の家。予想どおり自身の部屋のバルコニーから寝巻き姿の湊がこちらを見ていた。クレセント錠を回すのも煩わしい。急いで窓を開けて同じくバルコニーに出る。

「静弥、誕生日おめでとう!」

春の夜はまだ肌寒い。寝巻きなら余計に冷える。なのに、届いた声のなんとあたたかいことか。湊の声に反応してクマが吠える。近所迷惑とか、夜中とか、そういう理屈が全部抜け落ちてしまう。
ただ、好きだと思った。数えきれないほど噛みしめてきた、たったひとつの気持ち。湊は、何度だって僕の中心を正確に穿つ。十七歳になった、その瞬間にも。

「ありがとう!」

礼を返すと、湊は笑って「おやすみ」と手を上げた。こちらも手を上げて「おやすみ」を伝える。お互い同じタイミングで部屋に戻り、窓を閉める。カーテンを半分閉めたところでまた湊が手を振ったのが見えた。

「好きだよ」

気づけば、声になっていた。こぼれて、あふれて、どうしようもない想い。窓を閉めた向こうには届かない。自分のまわりにだけ、広がって溶けていく。

はやく大人になりたかった。去年の今ごろが、いちばん焦れていた。はやく、どうにか階段を飛ばして進み、湊を助けられないかということばかり考えていた。
大人だったら、きっともっとうまくやれるはずなのに。いろんなことを、うまくやってのけるのに。
だけど今は、そうじゃない。
まっすぐ前を見て、一歩ずつ先に進んでいく。それしかできないし、そうやって湊の隣に並んで歩いていきたいから。少しずつでいい。いつか、先の未来から今を振り返ったとき、少しは大人になれたかなと思えるように。

机の上に置きっぱなしだったスマホを手に取る。

『窓の外って何? ホラー的な話?』
『やめろ』
『かっちゃんオバケだめだもんね~』
『俺もオバケはやだ~!』
『うるせーよ!』
『ごめん、個人メッセに送ったつもりだった。直接おめでとうっていいたくて』

そんな会話が続いていた。どうやら気づいていなかったようだ。そういうところが、湊らしい。自然と顔がゆるんでしまう。

『みんなお祝いありがとう。もう遅いから、早く寝なよ』

それだけ送り、あとは各々の『おやすみ』が届いたのを見届けグループトーク画面を閉じる。アプリ自体を終了させようとしたところで、ひとつ通知が残っていることに気づいた。

『好きだよ』

それは、送り間違えないのか。
また急いでカーテンを開ける。ちょうど、湊の部屋の電気が消えた。照れ隠しなのか、なんなのか。決して、ここぞというときには外さない。それが湊だ。
僕の好きな人。僕の、初恋の人。

誕生日を迎えたところで、実質的にはなにも変わらない。日付が変わっただけ。数段飛ばしで上れる階段なんてどこにもない。
だからこの新しい一年も、訪れる明日も、たった一秒先の未来だって、湊を好きだと思う。
ゆらぐことのない、道しるべのような、たったひとつの。

fin.

190402
静弥くんお誕生日おめでとう。両想い湊静。

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