家族でも親友でもない。従兄弟というのはあくまで親族であって、それ以上でもそれ以下でもない、はずだった。うっとうしくて、憎たらしくて、うるさくて、だけどそばに居るのが当たり前だった。生まれたときから築かれていた関係を壊して、あたらしく作り直せばもう元に戻すのも難しくなる。
わかっていても、どうしても踏み出さずにはいられなかった。この衝動をなんと名付ければよいのだろう。
まんまるな目をさらに見開き、ぼたぼたと涙をこぼした七緒の顔をきっとこれからも忘れない。それだけで伝えてよかったと思う。
「遅いよ、バカ!」
なのに突然怒られて、バカってなんだよと言い返そうとしたのに、七緒はまるで幼い子どものようにしゃがみこんで泣くから。
自覚をしたのも伝えるのも、教えちゃくれないだろうけど、たくさん待たせてしまったのだと苦しくなる。
子どものころとは反対だ。姉たちに言い負かされ、泣きべそをかいていた自分を真っ先に慰めにきたのは七緒だった。あのちいさな手のひらに、どれほど慈しまれたことだろう。
「泣くなよ」
同じくそばにしゃがみこんでも、しゃくり上げる声だけでいらえはない。両腕に隠されてしまって顔も見えない。かつてされたように、頭に手を置いた。ほそい肩がびくりと震える。
「七緒」
やわらかく跳ねた髪の毛を、こんなふうに撫でたのはいつぶりだろうか。
「好きなんだよ、おまえが」
だけど自覚してしまった。伝えてしまった。たとえ元に戻すことができなくなるとしても。どれだけ待たせてしまったとしても。
「――さい、」
「さい?」
手を振り払うように立ち上がった七緒が、真っ赤な目のままこちらを睨め付ける。
「うるさいバカ! オレのほうがずっと好きだから!」
「なに怒ってんだよ」
「そりゃ、怒るよ! なんでそんな、いまさら、」
また思い出したみたいに、七緒は顔をゆがませた。感情がせわしないのはいまに始まったことではないが、こうして泣いているところを見たのもずいぶんと久しい。
いつのまにか、泣いている姿を見せなくなって。
いつのまにか、無邪気に笑いながら「かっちゃんだいすき」なんて言わなくなって。
そんなことに気づかないほどずっとずっと前からきっと。
「はなせよ」
立ち上がって抱きしめると、素直に腕の中に収まったくせに天邪鬼なことを言う。めんどくせえ、と思うのに、なぜだか頰が緩んでしまったから厄介だ。
「七緒、好きだ」
息をのむ音が聞こえた。今度は目を合わす。またまんまるな目はこぼれそうなほどに見開かれている。驚いたときの猫みたいだ、なんて言ったらさらに怒らせるだろうか。
「七緒が好きなんだ」
「も、もういい」
「なんでだよ、言わせろ。好きなんだよ」
「――ッ、そんな、何回も言わなくていいから!」
とうとう腕を突っぱねられて距離を取られる。うつむいてしまい表情は見えない。それでも、見えている首筋や耳が真っ赤なことにはさすがに気づく。
「死んじゃう……」
ふるえるような、頼りない声だった。
うっとうしくて、憎たらしくて、うるさい存在だったはずなのに。七緒の悪口なんていくらでも思いつく。だけど始めからそうだったわけじゃない。
まだ気づいていないことも、当たり前になりすぎて見えなくなっていることもたくさんあるだろう。
どうしようもない。とうとうヤキが回ったか。
「七緒のくせにかわいいこと言うなよ」
「はぁ?! かっちゃんこそ、かっちゃんのくせに……なにそれ、かわいいとか言うな!」
「いてっ! 殴んなバカ!」
まあ、小憎たらしいことには変わりはないのだけれども。
それでも補って余りあるほどに、いまこの身を満たす感情の正体を、きっと愛というのだろう。
fin.

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