19.ラブルム:くちびる(頬杖 合図 おやすみ)/海七
そういえば最近、キスしてないかも。ボックス席の斜向かい、車窓の外を見ている横顔は、めずらしく頬杖をついている。表情はいつもの仏頂面だが、だいぶ気が抜けている証だ。
その、すこし尖った下唇に、しばらくふれていない。とはいえ今すぐするわけにはいかないし。最近してないからしようと持ちかけるのも、こちらばかりしたいみたいで悔しいし。
どうしたもんかと考えても、駅から分かれ道までの短い距離で思いつくはずもなく。
「じゃあまた明日ね、おやすみ」
いつものようにひらひら手を振ったら、返事は「おい」という粗野な声だった。なに、と返す暇もなく肩を掴まれて、薄暗い帰り道は、瞬く間にかっちゃんしか見えなくなる。
「……なんで」
「さっき合図したろ、お前」
初耳ですけど。そういう、こっちが気づいてないことに気づくとこ、困るよ。
fin.

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