『傘干しっぱなしだったけど、他の持ってます? 雨降ってきた』
先に帰宅している恋人から届いたのは、悪い知らせだった。退社後はそのまま地下街を通るから、外の様子なんて気にしていなかった。そう言われれば周りも傘を持っている人が見受けられる。
『持ってない。結構降ってる?』
『それなりに』
『じゃあ走って帰るから、お風呂しといて』
「OK」のスタンプが送られてきたのがつい5分ほど前。思えば油断をしていたのだろう。普段は持っている折り畳み傘を忘れたことも含めて。
なので改札口で、ご機嫌な顔をした倉持が立っていたのには心底驚いてしまった。
「なんでいるの?」
「びっくりさせたかったんで」
「……ありがとう」
「次は迎えに来て、って言ってくださいね」
雨がしみたスニーカーのつま先、嬉しそうに笑った顔。光が灯るようなやわらかさと同時に、しめつけるような甘い苦しさが心臓を苛んだ。
好きだと、特別だと思うたび、ひとつひとつが雨粒のように心に沁みる。そんなふうに甘えていいなんて、倉持がいなきゃ知らなかった。
fin.

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