ゆっくり息を吐き出す音がした。遼平の、まるい瞳に見つめられると『目力』という言葉を感じる。初めて愁がそれを感じたのは、湊からだった。見えない手にやんわりとふれられるような、不思議な感覚。
「好きだよ」
声が、冷たい水のように降ってくる。渇いた喉を潤して、身体の中を満たす。他愛のない雑談が途切れ、静かな沈黙が訪れたとき。指先同士を絡め合い、ささやかな戯れをするとき。遼平がいつもくれるもの。
「――うん」
そっと返事をすれば、緊張がほどけて顔中にやわらかな笑みが広がる。自分の一言で、相手の中にも同じものが満ちているのがわかるこの瞬間が好きだった。初夏の澄み渡った青空に気づいたときのような気持ちになる。夏が来た、と感じる瞬間。出会い、お互いを知ったときのことを何度も思い出す。
「愁くんって陽だまりみたいだよね。いっしょにいると、こう……ぽかぽかした気持ちになる」
「ぽかぽか……」
言い慣れない擬音を復唱してみると、遼平は「あったかくて優しい感じ!」と言ってまた嬉しそうに笑った。
「俺も、遼平くんといるとそういう気持ちになるよ」
「ほんと? じゃあ俺たちぽかぽか同士だね」
のんびりした響きがくすぐったくて、頬が緩んだ。
違うところ、似ていないところはいくらでもあるのが当然なのに、こうして同じところがどこかに埋まっていて。それを新たに見つけるたび、また君を好きになる。
fin.

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