(こちらの湊くん目線 文字数・指定ワード縛りほぼなし)
なんだ、こんな条件なら簡単に出られる。と思って「すぐ出られそうでよかったな」と軽く声をかけようとしたが、静弥は「悪趣味にもほどがある!」と憤っていたのでとても言えなかった。
「そんなに怒るなって」
「怒ってない」
「怒ってるじゃん……」
どうやら、監視カメラの前でキスしないといけないのが相当嫌らしい。さらには「他にも隠しカメラがあるのかも」と言い出し、部屋をくまなく調べ始めた。もちろん湊も嫌なのは嫌だ。しかし見つけたところで結局キスはするんだし、ここから出るためならやむを得ないというか。
それに――最近、キスしてないし。なんて考えが一瞬頭をよぎる。だが「そういう問題じゃない」とますます怒らせそうなので黙っていた。いまの静弥に口で敵うわけがない。普段は温厚で冷静、賢くて優しい幼なじみだが、こうなるとどうにもならないことを湊はよく知っていた。その場にしゃがみ込み、静弥が満足するまで待つことにする。
「まだ?」
「まだ。だって気味が悪いじゃないか。僕たちがただの友達じゃないって、誰かに知られているみたいで」
見知らぬ誰か、この部屋に閉じ込めた首謀者に。本当にそんな誰かがいるのかはわからないが、静弥が何を不安に感じているかは理解できた。よくわからないけど出られるならいいか、くらいしか考えていなかった自分とのこの違い。普段から、細かいこと気にしすぎだろと思うこともあるけれど、静弥のそういう思慮深さに助けられてきたのも事実だ。
「そうとも限らないんじゃないか? だっておれ、静弥となら友達同士でもできたよ」
ほかの相手ならそれなりに葛藤もあると思うが、もし恋愛感情に気づく前だったとしても、静弥となら迷わない。
壁を調査していた静弥がちらりとこちらを見た。しかしすぐにまた壁へ目を戻し、小さな声で「そういうこと、軽々しく言わないでほしい」とつぶやく。他に言いたいことがあったのに、呑み込んだときの言い方。
なんだよ、それ。
静弥がぴりぴりしているのがそのまま伝わってきたせいか、「軽々しく」と決めつけられたのがやけに痛かった。静弥のほうこそ、こちらの感情を軽く見ている気がする。立ち上がって近づいたけれど、静弥は背を向けたままでまったく気づかない。
「静弥だからに決まってるだろ」
考えるより先に動いていたので、振り向かせた静弥がひどく無防備に見えた。不安や焦り、戸惑いを湛えた瞳のまま「ごめん」と謝られてしまうと、さっきの痛みなんてすぐ消えてしまう。静弥がこんなにもはっきり動揺を表に出すのはめずらしい。だけどそうなるときはいつだって湊のためだということも、よく知っている。
「ていうか、」
しばらくキスしてないし、早くしたいんだけど――いや、違う。
「……焦らすみたいなこと、しないでほしいんだけど」
静弥が何か言いかけたくちびるを、そのまま塞ぐ。他に隠しカメラがあったのか、首謀者がどういう目的だったのかもさっぱりわからないままだが、がちゃりと鍵が開く音が響いた。
「――開いた?」
「たぶん……」
さりげなく離れようとする静弥を軽く引き止める。
「……もういっかい」
誰かに見られているとしても、開いたのなら一回でも二回でも同じことだ。
「ずるいよ」
と責める声は甘く、同じように「ごめん」と言いながらもう一度くちびるを重ねた。
fin.

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