何か飲みたいものあるかと尋ねると、静弥はすこし間をおいてから「コーラ」と答えた。普段はだいたい水、お茶、コーヒーばかり選んで、甘いものを欲することがない。つい顔をじっと見つめてしまう。
「なんですか」
「めずらしいなと思って」
夏なので。とだけ答えて、静弥はドリンクコーナーの扉を開きおなじみの赤いラベルを手に取った。かごを差し出して受け取る。夏に、炭酸がはじける喉ごしを感じたくなるのはわかる。いまはコーラでも、これが数年後には「とりあえずビール」になったりするのだろうか。考えると楽しみでもあるし、勝手に物寂しくもなったりする。
「アイスも買うか。コーラフロートにしてさ」
「いいです。コーラが飲みたいだけなので」
「俺が食べたくなったんだよ」
お子様ですねと笑う柔らかな声を、きっとこの先も覚えているだろう。夜のコンビニ、短いドライブ、ひそやかなデートのことも。数年後なんて軽々しく考えてしまったけれど、学生の数年はずっと濃密で劇的で、こんな未来さえ少し前は信じられなかっただろう。
「先に車戻ってていいぞ」
キーを渡そうとすると、静弥はかすかに戸惑いを浮かべてかごとこちらの顔を見比べる。いちばんの目的を、まだ手にしていないから。
「……何? ゴム買うところまで見届けたい?」
そっと耳元へ囁いたら、ひったくるようにキーを奪われた。つかつかと出入口へ向かう静弥の背中に、ほんとお子様でごめんな、と思う。
厄介なのに引っかかっちゃったよな、お前も俺も。
fin.

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