白状すると期待はした。肩にふれていた湊の体温は湯たんぽみたいに高かったし、瞼もほとんど落ちかけていたけれど、「眠い?」と問うても「うん、もう寝る」と自室に戻ったりはしないんだろうと。
思惑どおりになったなら、背もたれにかけてあるブランケットを広げてかけてあげて、頭をなでながらかわいいなあってしみじみしたかったんだけど。
「……寝ないの?」
湊の頭はこちらのひざの上に乗っていて、身体はソファに横になっていて、まさに目論見どおりになったはずなのに。すぐ真下から視線を感じる。返事はない。先ほどまでとろとろしていた瞼は、そんな余韻など感じさせないくらいはっきりと開いていた。
「そんなに見られると、気になるんだけど」
この体勢になってから、もうまったくテレビの内容が入ってこない。視覚も聴覚も働いているはずなのに、情報として処理できない。とにかく落ち着かないというか、それこそこちらの企みを、わかってやっているんじゃないかって。
「ん、静弥ってまつげ長いよな」
「そうかな……」
「キスするまで知らなかった」
「へ、へえ……」
どう答えたらいいんだ? わからなくて目を合わさないよう前を向いた。途端、指先であごの下にふれられて、すぐまた湊を見ることになる。
「ぁっ……? な、なに?」
「――ここ、ほくろがある」
「そ……そんなとこ見てないで、はやく寝なよ」
湊はすこしむっとした顔になって起き上がる。もうそれだけで理解してしまった。本能的には逃げないと、という気持ちもあるはずなのだが、逃げられたことなんて一度もない。だってそれ以上に、震えるほど嬉しいから。
掴まれたあごを持ち上げられ、また湊が先刻の場所にふれる。今度は舌で、なぞるように。
「ッ……、ちょ、っと……」
「だっていまの、静弥が悪いよ」
「なに、が」
鼻先がふれそうなほどの至近距離で。この瞳にただ見つめられると、逃げようなんて思えなくなる。こんなに近くで見つめ返せることの幸福ばかり、あふれてこぼれてしまいそうだから。
「――やらしい声、出した」
一気に、湯気でも立ち上りそうなほど体温が上がった。湯たんぽなんか比じゃないくらい。湊のことしか見えなくなるし、湊の声しか聞こえなくなる。テレビがいつ消えたかなんて、本当に気づいてすらいなかった。
湊の欲情の対象が、自分であると実感するたび、生まれてよかったとすら思う。
絡めあった舌の、燃えるような熱さに火傷したい。負った傷を口内に隠して、何かを食べるたびその痛みを感じたい。だけど湊はきっと、そんなのはだめだと言うだろう。
そういうところが、狂おしいほどに好きなのだ。
自分でも知らないところにあるというほくろを、湊だけが知っている。いまのところは、それで我慢することにしよう。
fin.

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