はじめて見た夜の海は、途方がなくてこわかった。真っ黒なそこで、時おり立つ白波がテレビの砂嵐を連想させる。なにか恐ろしい存在が僕たちを連れ去ってしまうような気がして、握っていたその手首をもう一度ぎゅっと握り直す。
「こわいの?」
「こわくないよ」
「うそ、ビビってるだろ」
「ビビってない」
春市のうそつき、と笑って歩き出してしまったから、引かれるように僕も歩く。うそじゃないよ。どんなに恐ろしいものがやってこようと、真っ暗な夜の中でも、僕には星のように輝く味方がここにいるから。
あの華奢な手首を、こんなふうに抑えつけるために握りたくなかったのに。兄貴は僕を傷つけない。星は届かないから美しい。あの夜の海の白波より、抑えられない衝動と欲情が、今はずっとこわい。
fin.
190701
19 リーヴァ(水辺)リクエスト:春亮(もしくは小湊兄弟)
星と白波だったので夜の海というのはすんなり決まった。家族でお出かけしたときに見た、ってイメージで書き始めたけど、小湊家わりと海に近いところに住んでそうなのでそのあたりはふわっとしている。テレビの砂嵐=恐ろしいものっていうのは、リング(貞子)のことです。今でこそ春市さんはホラーに耐性ありそうだけど、ちっちゃいころは普通にこわがってそうだし。亮さんはちっちゃいころからホラー好きっぽいけど。
個人的な萌えポイントはちっちゃい春市が亮さんの手首を握るってところで、もちろんお題を踏襲したけどふたりで手をつないで握り合ってるわけじゃないところ。春市が一方的に握ってて、でも亮さんはそれを振り払わない。
本当は「あの華奢な手首を」以降は書くつもりがなかったんだけど手首ってなんとなく不穏だし、たぶんしっかりひとつのお話として書くことはないけどわたしはじめっとした春亮が好きだったし、きっとリクエストくれた朝井さんもただかわいいだけのふたりを求めてるわけではないんじゃないかな?と勝手に解釈したのでじめっとしたオチにしました。
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