手が伸びてきた瞬間、ごく自然に抱きしめられると思った。
「やっぱり痛かったろ」
しかし手はただそこを撫でるだけで、そんな想像をして全身をこわばらせた自分を恥じた。
「もう大丈夫ですよ」
最初は包帯まみれだった左肩も、いまはほぼ完治している。なにせ明日は退院だ。この人は用がなくても見舞いに来てくれた。
「いまの話じゃねーよ、俺ですら痛かったんだからよぉ」
入院着越しでも体温が伝わる。手当て、という言葉の意味を思い出す。屋上から見渡す街は平和そのもので、明日もそうであることを願いたい。
「でも誰かを守るために負った傷は、勲章だよな」
笑った顔がまぶしく見えたのは、青空が目に沁みたから。
「そうですね」
お互いの身体に、これからもそれは増え続ける。無事で、よかった。二週間前の会話を思い出す。
この人はもう、惑うことはないのだろう。だから俺も負けたくないし、もっと強くなりたい気持ちはますます強くなっている。
けれどいまは、伝わる体温だけをじっと感じていたかった。
fin.

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